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「人間としての感情を殺した演技に苦戦しました」7/10公開「恐怖」片平なぎさインタビュー
「人間としての感情を殺した演技に苦戦しました」
中田秀夫、清水崇らホラー映画界のそうそうたる顔ぶれが参加した企画「Jホラーシアター」の最終章を飾る「恐怖」。「リング」の脚本などで知られる脚本家、高橋洋がメガホンを取った本作で、「2時間ドラマの女王」としておなじみの名女優・片平なぎさが、脳の人体実験に執着するあまり、狂気に陥っていくマッド・サイエンティストを熱演。彼女が悩み抜いた末に、たどり着いた演技とはどんなものだったのか……? その真相に迫ります!
苦手なホラー映画に出演を決めた理由
――片平さんご自身、ホラー映画を観ることはお好きなんですか?
わたし、ホラー映画を観るのが、とっても苦手なんですよ。でも、事務所からこういう映画の話があるんです、と手渡された台本の仮タイトルが「死後」だったんです。まずは、そこに大きく惹(ひ)かれました。
――なぜ「死後」というタイトルに惹(ひ)かれたのでしょうか。
以前、女優シャーリー・マクレーンの著書である「アウト・オン・ア・リム」など、死後の世界を書いた作品にハマった時期がありまして…。その手の本を片っ端から読んでいたら、風邪でもないのに発熱するという不思議体験をしたものですから(笑)。
――実際に脚本を読まれたときの印象は?
この映画は、ホラーとはいえ、幽霊やお化けが出てくるわけではない。とはいえ死後の世界を描いているわけでもなかったんです。そんな不思議な世界観を感じました。最終的に「恐怖」というタイトルに変わりましたが、「死後」が引き合わせてくれた、これも一つの不思議な出会いだったのかな(笑)。
悦子のイメージは、「スチュワーデス物語」の新藤真理子!?
――その後、高橋洋監督と会われたとき、どのようなお話をされたのですか?
高橋監督は、わたしに会うや否や、「悦子は『スチュワーデス物語』で片平さんが演じられた新藤真理子なんですよ」とおっしゃったんですね。その瞬間、わたしは「えーっ」と戸惑ってしまいました。なぜなら、わたしが脚本を読んで想像していた悦子のイメージと、真理子のイメージはあまりにもかけ離れていたので。
――そのイメージの違いとは、具体的にどういったことなのでしょうか?
高橋監督が書かれた脚本は、わたしには理解しにくい複雑なものでした。ずっと離れていた母娘が十数年ぶりに巡り合った。皮肉にも、脳の人体実験にとりつかれた外科医と、人体実験の被験者という立場で。さらに、娘は自殺志願者だった。という衝撃的な展開でしたので、母、悦子にも逡巡(しゅんじゅん)は多少なりともあると思ったわけです。とすると、常に冷酷な(『スチュワーデス物語』の)真理子とはどこか違うような気がして……。
――その後、監督から橘外男の小説「女豹の博士」などを読むことをすすめられたそうですね?
「これを読むと僕の描きたい世界がわかっていただけると思います」と、3冊ほど(参考文献を)すすめられました。でもこれが、読めば読むほど難解になってくる。監督が思い描かれているイメージが、漠然とは見えてくるんですが、それを表現するにはどうしたらいいんだろうと悩みましたね。その後、リハーサルを経て、現場に入っても悩み抜くこととなりました(笑)。
――ベテランの片平さんが悩み抜くということは、かなりの試練だったようですね。
まずは、監督から「母親の感情を殺してください」と言われ、最後には「人間の感情も捨ててください」と言われました。とにかく、現場では「殺す・捨てる」の連続でした。昔から、役者の引き出しは多い程良しと思い込んでいた私は、引き出しを空にしろといわれた様な気がして戸惑いましたが、とにかくOKが出るまで演じるしかなかったですね。
ベテラン女優を悩ませた、感情を「殺す・捨てる」の演技
――「2時間ドラマの女王」のイメージが強い片平さんですが、『恐怖』は女優人生において、どんな位置づけの作品になったのでしょうか?
2時間ドラマとか映画とか、区別して役づくりができるほど私は器用ではありません。毎回与えられた役柄はどういう人物なんだろうと想像する事から始まります。今回の作品では、その想像が自分の足を引っ張ることとなり、悪戦苦闘の連続でした。わたしにはもともとセリフに感情を込め過ぎてしまうクセがあるようなのです。
――そういう意味では、感情を表に出さない悦子は、片平さんとは真逆のキャラクターですよね?
そうですねぇ。本読みのときに、監督から「片平さん、教科書を読むみたいに、もっと棒読みで読んでもらえませんかね」と言われました。普段、小説を読んでいても、ついつい感情を込めてしまう、そのクセを今回あえてハズすという、いい経験になりました。
――実際に完成した作品をご覧になったとき、どのように思われました?
先日、試写を観たんですが、実は、それまで正直不安で観るのが怖かったんですね(笑)。でも実際に仕上がった作品は、監督のおっしゃっていた通りで、悦子はもっと感情を殺してもよかったかな、と思ったほどです。本当に、いい勉強をさせていただきました。
――10月には、「インシテミル 7日間のデスゲーム」が公開されますが、こちらの作品ではどのような役柄を演じているのでしょうか?
原作にはないキャラクターで、ミステリー好きの主婦役です。偶然ですが、今度もホラー映画界で知られている中田秀夫監督の作品で、サスペンス・スリラーです。この作品には、密室に閉じ込められた人間の弱さみたいなものが描かれていると思います。また、「恐怖」や「インシテミル〜」など、最近は若い俳優さんと共演する機会が増えているので、いい意味で刺激になっています。
――最後に、片平さんにとっての“恐怖”とは?
地デジ化。ハイビジョン。そして、大画面のテレビ(笑)。細かいところまで、鮮明に映り過ぎだと思うんですよね。それに、顔のアップにも年齢制限をつけてほしいぐらい。わたし、目が大きいせいでしょうか、目のアップを撮りたがる監督さんが多いんですよ。若いころは対応できても、「もう勘弁してェ〜〜!」と声を大にして言いたいです!(笑)
「恐怖」
7月10日(土)テアトル新宿他全国順次公開
公式サイト
取材・文:くれい響
写真:高野広美
編集:シネマトゥデイ
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